事例紹介

生産・受注管理システムで社員の意識改革を目指す~何でも聞ける環境づくりとシステムの使い勝手~

提供:有限会社 実松製作所

養鶏ケージ・自動化鶏舎システムなどの畜産関連製品をはじめ、建築・土木資材として使用される溶接金網製品や、住宅用ユニット基礎鉄筋、台車・パレット・タンク等の製缶製品など様々な製品を取り扱っている実松製作所。事業内容が多岐にわたるため、とある課題を抱えていました。

社内の意識改革を目指し、管理システムを統一・見える化

中島/SISC

今回の取り組みは「佐賀県中小企業 DX フラッグシップモデル創出事業費補助金」を活用しての実施ですね。DXで何を解決したかったのか、取り組みの背景を教えていただけますか?

実松常務取締役/実松製作所

弊社はいろいろなことに手を出している会社でして、もともとは養鶏用の金網を制作するところからスタートしました。畜産業だけでは受注の波が大きく、経営安定化のため多角化を進めてきたという背景があります。現在は4つの部門で展開していて、事業内容がそれぞれ全然違います。

縦割りの事業部門制を採用していて、社員もそれに合わせて配置し基本的に専門部隊になっているのですが、よその部門の仕事に対して理解がないことが課題だと感じています。もちろん、部門によってお客さんも必要とされる技術も違うので、社員がそこに集中することによって技能や知識が成熟しやすいという良い面もあります。しかし、理解が無いゆえに別部門のことをイメージで語ってしまうことがあり、それは時にネガティブな発言だったりします。例えば「あそこの部門はあんなに人をかけているのに、こちらには人をまわしてくれないのか」とか、明確な根拠なしに「あそこの部門は赤字だ」とか、きわめて主観的に語られている。そういった部分を課題に感じていました。

事業が多角化していること自体はものすごくいいことです。1事業が苦しい時でも助け合うことができますからね。今の4つの事業を同時多角的に展開している会社は他にないと思います。

しかし今はそれが社内を分断させる要素になっていて、なおかつ経営資源も限られている状況です。メリットは残したまま、デメリットを消すことができればうちの会社はもっと伸びるんじゃないかと思いました。

中島/SISC

人の意識改革や縦割り文化などの課題は一朝一夕に解決できるものではないでしょうし、これをやれば解決する!という明確な方法がないのでとても難しいところですよね。この課題をどのように解決していこうとお考えになりましたか?

実松さん

まず、4つの部門それぞれがそれぞれに異なる方法やツールを用いて管理を細かくやっているので、管理方法が属人化して特定のスタッフに頼ってしまっていたり、ブラックボックス化してしまっているという状況がありました。この状況をどうにかしようということで、社内の生産や受注管理を一気通貫で、誰がどこから見てもわかるような仕組みを作りたいと考えました。構想だけは前々から練っていたのですが、バラバラのものを集約するとなると既存の製品ではお金がかかるし、痒いところに手が届かない。頭の中でぼんやりとイメージを持っていたものの、なかなか踏み出せずにいた時に、今回の補助金を教えていただきました。

事実と数字に基づいた管理をしていくことで、社員の意識を変えるきっかけになるような取り組みにしていきたいという思いで実施しています。

中島/SISC

報告書の「今後期待される効果」の項目にも記載されていましたが、今回の取り組みで「社内の士気を高めてベクトルを合わせていく」という部分は見えてきそうですか?

実松さん

もちろんシステムの導入だけでは社員の意識は変わっていかないので、社内でいろんなことを話す環境づくりが大事だろうと考えています。社員それぞれに「黒字にしていかないといけない」という意識はしっかりあるんです。あるんですが、バラバラなんですよね。1つの事業を後から振り返って反省するような機会も今まではあまりありませんでした。PDCAサイクルを回す過程でみんなにいろんなことを話してほしいです。いろんな議論があってはじめて前に進んでいきますから。

今まではどうしても縦割りの中で話をしていて、事実ではなくイメージで横から口を出し、言われる方も「なんもわかっとらん」と反感を持っていた。もったいないですよね。何かしら語る材料があればそれをベースに話をしていける。システムで事実・情報が見える形にできていればその議論の材料として使うことができます。情報が集約されてみんなが見ることができる環境を作って話をすることで、前向きな方向に進んでいくことを期待しています。

中島/SISC

実松さんがおっしゃる「みんな」とは、リーダーや部門長だけでなく現場の11人を含めた社員全員のことを指しているんですよね。

実松さん

どこの部門とか担当とか関係なく、リーダーかそうでないかも関係なく、本当に全員です。

せっかくやっているのだから楽しく働いてしっかり稼いでほしいというのが願うところで、そのためには会社としても力をつけていくしかありません。

まずはシステム上で見える化を進め、問題になった案件や「これはどうなんだ」という点についてリアルタイムでデータを見ることができるようにして、ゆくゆくはそれぞれの事業部門間での報告会なども実施できるよう段階的に動いていきます。

システム開発の経緯

中島/SISC

実松さんはもともと別の会社に勤めていて、後継者として戻っていらしたんですよね。

会社に戻ってきたときの印象はどのような感じでしたか?

実松さん

わからなさすぎた、というのが正直なところです。

当代の社長も先代の社長もどちらかというと技術者寄りで、会社全体を通して営業や技術者寄りだと思います。その反面、バックオフィスに関してはどちらかと言えば人任せの面がありました。販売管理は専用ソフトを導入していて、今回のシステムと連動するように作り変えていますが、それもそもそも製造業向けの販売管理ソフトではないですし。おそらく導入時(20年前)に人に勧められたものをポンと導入したのではないかと思います。そういったバックオフィスの環境整備については興味関心が薄かったようです。

何かと「黒字にしていこう」「細かく管理をしなさい」と口では言い、実際に行われていることはほぼどんぶり勘定に近い。なかなか成果を数字として把握することが難しい状況でした。

中島/SISC

当センターに寄せられる相談のなかにはシステム導入をしたくても、社長に決裁を取るのが大変で話が進まないという声も良く聞きますが、そのあたりはいかがでしたか?

実松さん

社長も必要性は感じていたようです。世代的にデジタルに強いほうではないですから、具体的にどういうものが出来上がるかというイメージまではされていなかったのではと思いますが、こちらにまかせていただいた形です。

最近は紙を減らそうとよく言うようになっていますし、世の中の流れとしてやっていかないといけないという意識はものすごく高いです。

社長への口説き文句としては「社長がやりたいと言っていたことを実現します」と話しました。

中島/SISC

決裁が下りて補助金にも採択され、実際に実松さんが構想されたものを実現していくにあたり、どういう流れで計画を進めていかれたのか教えてください。

実松さん

まず計画の前に、外部の方に相談して意見をいただいています。

システム開発の業者選定にあたって、懇意にしていただいている唐津市の株式会社ワイビーエムの吉田社長に相談をしました。その中で、別途所属している勉強会にてお付き合いがあった株式会社福岡情報ビジネスセンターがシステム開発をされていて、なおかつ自分の考えと近いようなイメージを持っておられるということを教えていただき、システムのご相談に至りました。

補助事業の計画はこの2社と話しながら作成していきました。

採択が決まった後、実務段階でスタッフにジョインしてもらった形ですね。

中島/SISC

では、今林さんがジョインされる際には計画が進むことはもう決まっていたんですね。最初に話を聞いたときはどう感じましたか?

今林さん/実松製作所

何十年も働いているレジェンドたちに比べたらまだ3年ほどしかいないので「自分でいいのかな」と思いながらも、打ち合わせに同席した段階で任される予感がしていました。

実松さん

計画を進めるには事務局がないとどうにもならないですが、そもそもそういうところに関心がない人が多いためアサインできる人材は限られてきます。

ある程度のパソコン知識があってITリテラシーの面でも大丈夫だろうという人選ですね。

今林さん

その時横にいたのが僕だったという感じです(笑)

中島/SISC

今林さんは普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?今回の取り組みは専任スタッフというわけではなく本来のお仕事もしながら兼務している形ですか?

今林さん

入社して最初のうちは住宅基礎鉄筋の積算の仕事をしていました。そこから鉄工や畜産の設計などいろいろなところを任されるようになりました。人材が豊富なわけではないので、本来の仕事もしながらの兼任になります。

中島/SISC

ということは、今林さんは普段から部門をまたいだ動きができるというわけですね。

今林さん

そうですね、普段から部門を超えていろいろな人と関わっています。社内でここまでいろいろやっている人間はそんなにいませんね。

「何でも聞いて」スタンスと体制づくり

中島/SISC

DXあるあるとして、システム導入などを進める際に「せっかく導入したのに、使ってもらえない」ということが起こってしまいがちですが、そのあたりは今林さんから見てどうですか?

今林さん

各自でシステムに稼働を入力してもらうため、タブレット端末を11台渡しています。

確かにPCやタブレットを使ったことがないという方もいますが、僕に対して何か問い合わせることには抵抗はあまりないのかなと感じています。

大体いつも事務所にいるので分からなかったら何でも聞いてくださいと伝えていますし、みなさん「これどうなってんの?」と声をかけてくれます。

工場は今現在、導入を進めている真最中で、今のところはみんな面白がって触ってくれている感じですね。もちろん100%ではないですが、進んで触ってくれる人から全体に広げていく形が良いと思っています。

全体に対しての説明もしますし、そもそも電源が入れられないとか「画面が暗くなったけどどうしたらいいの?」といったレベルの人たちには丁寧にレクチャーをします。

壊してしまったらどうしよう、という不安を持たれる方にも「落としても簡単には壊れないから大丈夫、むしろどうやったら壊れたか教えてね」という声かけをしています。

中島/SISC

そういう問い合わせは突発的に起こるものですよね。

普段のお仕事もしながらそういった問い合わせのフォローもしていくというのは相当大変ではないですか?

企業によっては「マニュアルや手順書を見て対応してください」で済ませるところもあるみたいですが。

今林さん

設計関連の業務をしながら問い合わせにも淡々と対応していますね。

ちゃんとしたマニュアルを準備しきれていないということもあります。また、マニュアルを渡したとしてもきっと説明されている部分に行きつくまでに時間がかかるんですよね。

それならば、持ってきてもらって教える方が早い。

自分の業務と問い合わせでどちらに重きを置くかというと、その時その場で対応しないと作業している人たちが困ることになりますから、問い合わせの対応を優先しています。

図面はすぐ動くわけではないですし、頑張れば何とかすることができますから。

実松さん

頑張れば何とかなるとおっしゃいますけど、きっとそのせいで苦労されているんじゃないかと思います。

今林さん

苦労はしてます(笑)

図面が遅れるときは「すいません、遅れます。大丈夫ですか」と確認を取ったり、頭を下げたり……。

中島/SISC

今林さんが普段から部門を超えてみなさんとコミュニケーションを取っていることや、「何でも聞いてね」というスタンスで接していることが安心感につながっているのでしょうね。

推進担当者の苦労を上層部の方が理解しているというのもキーポイントだと思います。

実松さんから見ても社員さんは導入に対して協力的でしたか?

実松さん

そうですね。いままでスポットライトが当たっていない自分たちの仕事に光が当たっているという認識はあるようで、特に事務方はそこまで大きい抵抗感はないように感じます。

こだわりがあるところに関してはどこで折衷していくかという話になりますから、そういう調整の苦労は多少あったものの、割と協力してくれた印象です。

手間が増えて面倒くさいとか、自分の理解を超えてくるとやはり拒否反応が見えてくると思うので何でも聞ける環境づくりとシステムの使い勝手が重要ですね。

使ってもらうために、使い勝手を良くする

中島/SISC

システムの使い勝手という面で、もう少しお話を聞かせていただきたいと思います。

社員さんに使ってもらいやすいような工夫としてどんなことをされたのでしょうか?

実松さん

ひとつテーマとして直感的に触れるもの、見てぱっと触れるものを目指しました。

弊社は障がい者の就労支援を実施していたり、外国人労働実習生を受け入れたりもしています。システムをスマホでゲームするのと変わらない感覚で触ってもらいたいと考えていました。

中島/SISC

操作のレベル感をそのくらいにしてもらいたいというオーダーをシステム開発側に依頼されたということですね。

今林さん

はい。管理側は多少複雑ではありますが、そこは基本的に工場の従業員は触りません。工場従業員の操作側はボタンを1個にするか、はい・いいえで選択できるようなものにしてほしいと依頼しました。

社員には「ボタンを押すだけ」と説明して「押しても動かない」「変な画面が出た」という声が聞こえたらすぐに「持ってきて」と伝えています。

社員さんが操作する画面はとてもシンプル。
社員さんが操作する画面はとてもシンプル。
中島/SISC

かなり操作が簡単にできるようにされているんですね。

システム設計の最初の段階から「使い勝手の良さ」は意識されていたのでしょうか?それとも、デモ版などをつくって、実際に使ってもらった皆さんの意見を取り入れていったという流れでしょうか?

今林さん

工場の職人さんたちは直感的に動くことを武器とする人たちです。

不具合の対応はもちろん、「図面の寸法を守らなくちゃいけないけれど、これじゃできない」となったときの直感的な判断ができる、そこを得意とする人たちだということは認識していました。

実松さん

システム設計の最初は事務局3人だけでシステム開発側とやり取りをしています。使い勝手の良さを意識したのは㈱ワイビーエムに見学に行った時の影響が大きいですね。

開発期間的には通常よりかなり短い時間で開発してもらったということもあって、今が導入トライアルしている時期にあたります。

実際の現場での様子

中島/SISC

実際にシステムをどのように使われているのか、現場の様子を見させていただけますか?

実松さん

もちろんです。ご案内しますね。

まず、社員は事務所に設置している棚から各自タブレットをもって自分の持ち場へ行きます。もちろんこの棚はお手製です!

1人1台のタブレットを保管するお手製の棚
1人1台のタブレットを保管するお手製の棚
今林さん

1台を複数人で使うと間違えたり、間違えていても気づかなかったりするでしょうから、タブレットは11台です。それぞれに固有の番号を振ってログインの必要がないようにしています。

作業の開始・終了時にボタンを押して作業時間を記録していく。
タブレットで作業時間を記録していく。
今林さん

このタブレットに指示書が届くので、社員はバーコードを読み取って作業に入っていきます。作業を始めるときに作業開始のボタンをクリックして、作業が終わったら作業終了のボタンをクリックするだけの簡単操作です。

タブレットを操作するのは作業開始・終了時だけ
タブレットを操作するのは作業開始・終了時だけ
今林さん

作業中は邪魔にならないところにタブレットを置いています。

今後の課題と展望

中島/SISC

今はトライアル中ということですが、現在直面している課題などはありますか?

実松さん

本格導入してまだ1か月ですから、実際にどんな数字が上がってくるんだろうという部分がまだまだこれからです。

また、年度をまたぐ仕事に関してはシステムの利用を強制しないということにしていたので、部門によっては導入が進んでいないところがあります。その部門が今年度の仕事に置き換わっていくタイミングでうまく導入できるかどうかも課題です。

今林さん

他にも今後問題が山のように出てくるだろうと思っています。一つ一つ丁寧に対応していく必要がありますね。

実松さん

これから部門ごとのカスタマイズや、微調整が必要になってきます。そういう細かな設定は市販のソフトでは難しいため、今回の取り組みは開発を依頼して良かったと感じています。

中島/SISC

細かい変更点や微調整なども依頼して対応いただいているんですね。

社員さんの期待感などはどうでしょうか?

実松さん

将来はこんな風になったらいいねという期待や要望の声は聞いています。

今回の取り組みはDXフラッグシップモデル創出事業で採択いただきましたが、会社としても旗を立てたというような感じです。箱はつくったので、ここからやっていこうと意気込んでいます。

DXといえど魔法の箱を作ったわけではないので走りながらどんどん形を変えていくこともあると思います。社内から色々な要望が上がってきて、それが集約していくことを期待しています。

中島/SISC

もとより柔軟な発想で取り組みを進められているので、これからどんどんシステムもバージョンアップしていきそうですね。社内で事実とデータに基づいたポジティブな意見交換ができるようになればさらに成長も加速しそうです。

本日はお話を聞かせていただきありがとうございました!

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