事例紹介

限られたマンパワーを補うデジタル活用で売上増加と業務効率化の両立に挑戦

提供:山本農園

令和5年度のDXアクセラレーター事業で伴走支援を受けられた山本農園の取り組みをご紹介します。

山本幸弘様


■山本農園様のプロフィール

山本農園様は、佐賀県の南西部にある太良町で3代にわたって、みかんの栽培をおこなわれています。

 山本様は、平成12年に代表に就任されて以来、「常に前向きな農業経営を通して、将来に希望が持てる新しい農業を確立し、環境に優しい社会の発展に貢献する」という方針で、みかん栽培に常に前向きに取り組まれています。

 太良町にある多良岳は「日本名水百選」のひとつである「轟渓流」があり、その麓にある山本農園様でも地下水脈が豊富で、ミネラル分がたっぷり詰まった水を、みかんの樹木が吸い上げるとのことでみかん栽培に非常に向いている環境とのことです。

 その環境の良さもあり、また安定した売り上げの確保を目的に、山本農園様では現在、年間34種類のみかんの栽培、オフシーズンには加工品としてジュースを製造、販売と幅広く展開をされています。

山本農園から有明海をのぞむ絶景


■デジタル活用について

 本事業に取り組まれる前から、山本農園様では、2010年(平成22年)にホームページを起ち上げられ、デジタルによる情報発信を積極的におこないながら、自社ネット通販にも取り組まれています。

 自社サイト以外にも、食品系のネット通販ポータルサイトに出品をされるなど、Web分野での販路開拓に取り組まれていました。

山本農園様のホームページ


■本事業に参加した理由

 山本様からは、初期ヒアリングの段階で販路拡大に向けたネット通販取引の強化やSEO対応にご関心があるとのことをうかがいました。

 ホームページの内容改善や、取扱商品の売上向上に向けた総合的なサポートに期待していただき、本事業にご参加いただきました。


■DXプロジェクト開始~課題のヒアリング

 2023年9月に本事業のキックオフミーティングを行い、改めて現在の山本農園様のビジネス状況と課題のヒアリングを行いました。

 ①経営上の課題
  ・気候異常による、栽培環境の悪化
  ・鳥獣害被害(イノシシ、アナグマ)
  ・人材確保

 ②売上拡大に向けた課題
  ・直販の新規顧客の増加

 ③業務領域での課題
  ・受発注業務の軽減

 ①は農業ならではの自然に関する課題で、2022年は年明けの雪害の影響が甚大だったことや、鳥獣害、特にイノシシの被害で困っているということで、経営への影響度は非常に大きいというお話でした。

 ①については、デジタルだけでは簡単にコントロールできない課題が多く、今回の事業では②③を検討することになりました。まずは、ホームページの販売データの分析をおこない、ネット通販の現状分析をおこなうことからスタートしました。


■現状分析で見えてきたこと

 2016年1月から2023年9月末までの、ネット通販(直販)販売データの分析をおこないました。

 具体的には、下記内容で現状の見える化を行いました。

【主な分析項目】
 ①会員、非会員の購買実績
 ②デシルランク分析(全会員を売上金額が高い順に並べて10等分し各ランクの実績を見る)
 ③年代別の購買実績
 ④リピート状況(全体・主要商品別)
 ⑤主要商品の買い回り
 ⑥主要商品の同時購入商品

 分析結果を山本様に報告差し上げた際は、山本さんが肌感覚で感じられている傾向を、集計結果として見える化されたことで改めてご確認いただけました。

 あわせて、事務系の業務についても内容をうかがいました。こちらは、例えば自社以外のネット通販からの受注業務を限りなく削減されているなど、山本様が日常より業務効率化に取り組んでいらっしゃることがよく分かりました。

山本農園様が栽培されているみかん畑。土づくりからこだわっておられ、ナギナタガヤという草を植生させることで、除草剤を極力使わない工夫をされています。
ただ、左下に写っている鳥獣対策の電流柵が園内のいたるところに設置してあり、被害が深刻化しているというお話をよくうかがいました。

■DX対象テーマの選定

 データ分析から見えた現状と、DXプロジェクト開始時にヒアリングさせていただいた課題を踏まえて、DXで取り組むべきテーマについて、山本様とディスカッションをおこなわせていただきました。

 結論としては「直販の新規顧客を増やすことをDXの優先テーマとし、そのために必要な業務効率化にも取り組む」ということになりました。

 山本様が新規顧客を増やすことを優先された理由にはいくつかあると思っています。その中の一つが、コロナ禍で新規顧客獲得の動きができなかったことです。

 例年、東京のレンタルスペースに山本様自ら赴いて、商品を直売し、新規顧客を獲得され、その後にネット通販に誘導したり、紹介を発生させていたそうですが、それが新型コロナにより実行できなくなりました。

 これは、データ傾向にもあった、「会員の構成比率が高い=顧客が固定化してきている」、という特徴に現れていました。


■具体的なDX取り組み

 直販の新規顧客獲得に向けて、山本農園様には2つの新たな取り組みにチャレンジしていただきました。

 ①Web広告
 予算や効果の面でこれまでWeb広告を実施されたことがなかったのですが、ターゲティングやクリエイティブにこだわって広告投下を行うことを提案いたしました。

 <広告配信条件>
 ・地域   :神奈川県・千葉県・埼玉県(首都圏の一戸建に住むシニア層を想定)
 ・配信時間帯:午後のみ
 ・属性   :50歳以上男女
 ・その他  :過去30日以内に柑橘類の検索(Yahoo)をしている

 広告配信中の反応を見て、山本様と相談しながら、配信条件は随時変更を行い少しでも反応が出る条件を探りました。今後も検証を行い、配信条件の最適化を行っていきたいと考えています。

 直販の新規顧客を増やすというテーマが決まったタイミングで、山本様が繁忙期に入られました。

 現場管理から受発注対応まで、非常にお忙しい中、本事業のために時間を割いていただいている山本様の姿をみて、これ以上顧客数を増やすと、業務負担がかかりすぎる「ムリ」の状態に陥ってしまうのではないかと支援側の我々は感じていました。

 そこで、次のフェーズである「DX施策のトライアル」については、増量化(顧客を増やす)と減量化(業務を減らす)を同時にテストできる施策をおこなうことにしました。

実際に配信したWeb広告。
売れ筋の主要4品目の1つであるクレメンティンに絞って販売を実施。

 
 ②音声通販サービスの活用
 販売ターゲットをデータの上で実績のあった50代以上に設定したのですが、注文をWebに限定するといわゆる「かご落ち」による販売機会ロスが発生する可能性がありました。

 また、電話注文ができることを強調しても、山本農園様の場合は、全て山本様の対応となってしまい、既述の通り年間の最繁忙期において、そのご対応をお願いするのは現実的に困難でした。

 これらの課題に対応するため、「テレAI」という音声AIを活用した受注システムをテスト利用することにしました。

 「テレAI」は、集客広告に記載された専用の番号に電話し、名前と住所、注文個数を話すだけで注文が完了します。その後、管理画面にはAIが音声データを自動で受注データとして処理、登録までしてくれるというソリューションです。24時間365日注文を受け付けられる点も大きなメリットでした。

 「テレAI」を活用することで、新規注文数増加とそれに伴う受注業務の効率化を両立できる可能性があることを確認できた点は大きな成果でした。今回のテスト結果を踏まえ、本格導入を行われるか今後検討をされる予定です。

テレAI活用による注文の流れ(テレAI説明資料より)
 ●AIが音声を自動でテキスト化
 ●自動音声による自動受付
 AIによる2つの自動化が、テレAI活用のポイントでした


■今後の展望

 社会全体で人手不足が深刻化している中で、一次産業は最もその影響を受けており、また高齢化も相まって先行きが不透明な業界です。

 山本農園様においては今回、Web広告と音声AIソリューションというツール導入のテストを行いましたが、山本農園様としてのDXの方向性については、下記のようなテーマで検討を重ねることで明確になっていくと考えます。
 
 ・データ利活用による、既存顧客の利用活性化
 ・デジタル技術を活かした新たな顧客体験の場の構築
 ・海外を含めた販売エリアの拡大

 山本様は、新しいことへの挑戦をやっていくことをモットーにされ、非常に前向きに取り組まれる経営者ですので、これからもDXを含めた変革への挑戦を続けていかれると思います。

山本農園様にて(右から2人目が山本様)


 (会社概要)
 会社名 :山本農園
 住所  :〒849-1611 佐賀県藤津郡太良町大字大浦戊224
 事業内容:みかん栽培、販売


R5年度アクセラレータ事業受託会社:福博印刷株式会社

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