事例紹介

手探りからの脱却 町工場が描くDXによる未来

提供:佐賀ボーリング

R5年度の佐賀県DXアクセラレーター事業で伴走支援を受けてDXに取り組まれたことについて、竹内社長・竹内専務にうかがいました。

DXに取り組むきっかけと課題

このままでは市場が先細っていく

「何かを変えなければ存続できない」どんな企業規模でもこのような悩みを持つ経営者は多くいらっしゃいます。佐賀県にある中小企業「佐賀ボーリング」でも、外部環境の変化の中で、変革を迫られていました。
佐賀ボーリングは自動車エンジンの修理を主とした金属加工(内燃機修理)を行っている事業者で、佐賀市内に工場を構えて、昔馴染みのお客様に支えられる中で経営を進めてきました。
従業員は社長、専務に加えて1名の作業担当者の3名。
専務は、他の業種から最近佐賀ボーリングに加わって、父親である社長からさまざまな技術を学びながら佐賀ボーリングを支えています。
しかし、近年では「修理するなら新車を買った方がいい」という消費者の新車購入の傾向により業界全体で修理ニーズが先細ってきている上に、そもそも従来のエンジンとは大きく異なるEV化の大きな流れが、エンジン部材の修理自体の需要の先細りを後押ししていました。
この業界全体のピンチについて、社長、専務はもちろん危機感を抱いていました。
もちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)といった変革があらゆるところで叫ばれているのも、佐賀県内企業の同規模事業者が取り組んでいるのも承知の上でしたが、漠然とした不安の中、行動に移せなかったのです。

(写真:作業をする竹内専務)

何から始めていいかわからなかった

専務はITや営業といったあらゆる職種を経験してきましたが、佐賀ボーリングに加わった後に課題が山積みであることを知りました。
あらゆるシステムが最新のトレンドではなく、日常業務は社長と作業担当者が昔馴染みのコミュニケーションで進めています。
専務は業務を一つ一つ覚えていく傍らで、現場の理想の姿を描きながら、Google Appsheetの導入、Webサイトのリニューアル、SNS開始など孤軍奮闘してきました。
しかし、社長や作業担当者からの理解を得られない上に、即時的な効果は得られず、デジタル化による局所的な業務改善だけでは決定的な有効打にならないことを身を持って体感する結果となりました。
「これまでは中途半端に途中で終わってしまう。Webサイトも作りっぱなし、LINEも立ち上げっぱなし、SNSもやりっぱなし。」
自分一人だと挫折してしまうと専務が強く感じていた時、佐賀県が推進する「DXアクセラレータ ハンズオン事業対象企業」の応募をきっかけにDXへの取り組みを加速させていくことになります
「社長とやりたい方向が揃うか?が怖かった。」
「こんな小規模な企業が支援を受けていいのか?」
応募を経て、支援事業者である株式会社BottoKによる支援が決定したものの、勇足でプロジェクトを開始させた専務には一抹の不安が残っていました。
一方で社長には別の不安があったことを語っていただけました。
「これまでコンサルを利用するなどの発想自体がなかったんですよ。周りの企業さんもコンサルを入れてなかったので現実味がなかったですね。」

現状分析から見えてきた課題

データ分析の必要性を強く感じました

プロジェクトのスタートは現状分析からスタート。
従来型のシステムから顧客情報を整理するため、とても地味な作業に打ち込むことになります。
半年間の膨大な案件の整理となるため、専務は作業時間の合間を見て取り組み、1ヶ月ほどかけて過去の案件を分析できる状態までデータを加工できました。
その努力の甲斐もあり、利益率が高い仕事、低い仕事が顧客や案件種目別に可視化されたため、今後の経営戦略を練ることができる状態となったのです。

「データを分析することの必要性を強く感じています。
自社の状況を把握することで、社長や支援事業者さんと未来の話が具体的にできて、自社が目指すべきものが社内で合意がとることができました。
新しいことをする、機械を購入するなどの意思決定の際に、売上構成の現状把握がすごく効果があったと思います。振り返ると、決断できなかったのはデータがなかったからだと感じますね。ただ、あんな作業はもうしたくないので、データ管理のシステムも検討したいです。」
専務の語る現状とあるべき姿のディスカッションを繰り返す中で、取り組むべき課題の優先度がはっきりし、「何からやるべきか?」というプロジェクト推進前の漠然とした問題に対しての答えが見えてきました。

「特にDXの計画を作ったことが印象的で、これをしよう!というアイデアで止まっていたところから、未来に向けて具体的なアクションプランまで話が深くなったと感じます。」
今まで漠然としていたものが、現状分析などのデータに基づいた計画を練ることで具体性が増し、より深く施策を検討することができるようになりました。
「これは自社だけでは気づけなかったのですが、支援事業者さんによる客観的な視点での取り組みのおかげで、DXそのものが現実味を帯びてきています。」
そう語る社長も、目標を策定する活動の中で、具体的なイメージを固められてきました。

(画像:案件別の平均利率を可視化)

(写真:左 竹内社長、右 竹内専務)

会計ツール導入による気づき

必要なのは「孫の手」ではなかった

今回洗い出された課題の中の一つに、業務効率化があります。中でも、過去の案件を整理する上で、これまで使用していた会計ツールでは情報の可視化が難しいことがわかったので、直ぐにマネーフォワードの導入を検討しました。
「多くの人が勧めてくれて、多くの会社が成功しているツールを使うことは重要だと感じています。これは他の県内企業さんがDXの取り組みを紹介されたセミナーの中でお話しされていたことで実感しました。」
そう語る専務は現在社内の業務との紐付けを悪戦苦闘しながら進めています。
特に、導入にあたっては「詳細なタグ設定」や、「備考欄の文字制限」など既存システムでできていたことがマネーフォワードでできないことに、社長との衝突があったことを振り返ります。
しかし、社長は専務や支援事業者とのやり取りの中で、あることに気付いたといいます。
「届かないところに届く、孫の手のようなツールを求めていましたが、そもそも届く必要がなかったのでは?という認識を得ました。これまで請求書に記載していた情報は、請求書上で管理する必要がそもそもなかったんじゃないか?という考えになってきています。特にマネーフォワードのように広く利用されているツールにその機能がないということは「必要性がないから」と受け取っています。」
DXの取り組みの中で、自社で良しとされていたものが必ずしも正しいわけではないということが新たな発見でした。
専務からも社長の変化について語っていただきました。
「社長の考え方が変わってきたと感じます。以前はいくら私が言おうと響かなかったんですが、支援を受けていく中で話を聞いてもらえるようになったと思います。支援事業者の第三者的な視点に助かっていますね。」

顧客対応の曖昧さを排除

(画像:窓口業務の業務フローを可視化)

お客様の依頼内容をより明確できる

佐賀ボーリングの業務の中でも、電話対応の窓口業務の見直しは大きな課題でした。
佐賀ボーリングでは受注の連絡をお客様から電話でいただくことがほとんどで、これまでは社長でなければ判断がつかない案件が多くあり、社長の作業の手を止めてしまうことが業務時間を圧迫する要因だったのです。
対策として、業務を標準化し、受電時の応対をマニュアル化することでの属人性の排除や、お客様からの連絡自体をLINE公式アカウントに移行することを検討しています。
「電話・FAXよりもLINEとかメールの方がいいと率直に感じます。見積を要する案件などでは、電話で受けた依頼内容と、実際に依頼品を確認した場合で、依頼品の状態が異なることが多く、追加修理によって見積の金額が変わることがしばしばあったんです。
やはり電話では、依頼品の状態が分かりづらいんですよね。LINEやメールでは写真の添付ができて、より具体性が高くお客様の修理依頼を汲み取ることができます。現場に行って対処できないといった状況が起きづらくなるので、明らかな業務効率化だと思います。
このような業務を一つ一つ効率化していければ、これまでは積極的に取り組みていなかった新しいお客様獲得のための営業業務時間を創出できるので、より目標達成に向けたクリティカルなアクションができるようになると期待しています。」

今後の展望

新規のお客様をどんどん獲得したい

「実は取り組みの中で、Webサイト経由でいらっしゃった新規のお客様がいらっしゃったのですが、依頼時の要件の整理なども明確で、正に我々が求めていたお客様だったんです。こういったお客様をどんどん増やしていきたいと思います。」
そう語る専務は、支援事業者の作成した来年1年間の計画表を基に、具体的なアクションプランを検討中です。
Webサイトの強化やBtoBの営業など、今まではなかなか時間を取れていなかった業務に、時間を割くことで、売上のトップラインを超えられる実感が沸いています。

(画像:2024年の計画表)

変革は経営状況の健康診断から

「他の同業他社や同規模事業者に対して、DX取り組みに関するアドバイスはありますか?」という質問に専務から答えてもらいました。
「支援事業者さんに話を聞いてもらった上で、経営状況の健康診断をしてもらってわかったことがたくさんありました。
弊社の場合は、ぼんやりとした課題をずっと抱えていたまま、場当たり的な対策を試みては途中で頓挫していたんです。
ところが、経営状況の健康診断をしてもらった上で計画を立てていく中で、より自分たちが目的思考になったと感じています。今では社長と具体的なアクションプランまでディスカッションができるようになりました。
ぼんやりとした課題を感じていたり、一過性の対策に終始しているような事業者さんは、一度コンサルティングを受けてみるとわかることがあると思います。
まずは、自社の状況を正確に把握することから始めてみてください。」
経営状況の把握という最初の取り組みの重要性を語ってもらえました。
「何から始めていいかわからない…」という事業者様は是非ご参考にしてみてください。



(会社概要)
会社名 :佐賀ボーリング
住所  :〒840-0027 佐賀市本庄町本庄1185-6
業務内容:自動車エンジンの修理を主とした金属加工(内燃機修理)


R5年度アクセラレータ事業受託会社株式会社BottoK

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