光武酒造場が取り組んだ 製造・業務・営業DX ~DXを進めやすい企業風土とは?~
提供:合資会社 光武酒造場
芋焼酎「魔界への誘い」を筆頭に清酒・焼酎に限らず豊富な商品ラインナップがあり、数々のコラボ商品を打ち出すなど、時流を的確につかんだ商品が特徴的な光武酒造場。「伝統の中からの革新」を合言葉とする光武酒造場が取り組んだ、製造・業務・営業の3部門のDXを取材させていただきました。
部署間連携をスムーズに、3部門のDXを同時進行
- 中島/SISC
光武社長、本日はよろしくお願いします!
早速ですが今回お話しいただくDXの取り組みは「佐賀県中小企業 DX フラッグシップモデル創出事業費補助金」を活用して実施されたんですよね?
- 光武社長
そうです。製造・業務・営業の3部門を一気にDXしました。
- 中島/SISC
DXはスモールスタートで取り組みやすい部分や成果の見えやすいバックオフィスのDXから始めて、営業やマーケティングなどの攻めのDXに移行するというような、段階を追って進めていくというのが定石と言いますが、3部門の改革を一度にするのは大変ではなかったですか?
- 光武社長
同時進行しないといつ終わるかわからないですからね。
2年、3年とかけているとそのうちだらけてしまいそうですし、「やるなら一気に」と思いました。
- 中島/SISC
自分の部署だけでは解決しないが、他の部署と連携がうまく取れず、なかなか進まないというケースもあります。そういったハードルを感じることはありませんでしたか?
- 光武社長
あまり感じませんでしたね。
事務所の入り口に掲げている「酒造りは人づくり」を企業理念として、会社の中の雰囲気づくりや人づくりはしっかりやっているつもりですし、部署間に壁をつくらない社風もあると思います。
実際にはまず、各部署からメンバーを募ってプロジェクトチームを立ち上げました。営業部から1名、製造部から1名、事務所から2名と出荷センターから1名で構成されたプロジェクトチームを中心に取り組みを進めていきました。
- 中島/SISC
部署間連携における課題という高いハードルをDXの取り組み以前にクリアされていたことが成功のキーポイントだったというわけですね。
人づくりというと具体的にはどんなことをされているんでしょうか。
- 光武社長
京セラフィロソフィーをもとにした光武フィロソフィーの小冊子を作って全従業員に持たせ、毎日朝礼を行っています。また、年1回従業員総会を行って、会社の1年の方向性や各部署の方向性、自分の考えを伝えています。
人づくりをまずやったほうがDXに限らずどんな取り組みも進みやすいし、理解してもらいやすいと思います。
- 中島/SISC
光武フィロソフィーをつくろうと思ったのは何かきっかけや理由があったんでしょうか?
- 光武社長
10年くらい前ですかね、やりはじめたのは。私が40年前に会社を継いだ時は3人からのスタートでしたが、会社が少しずつ大きくなっていくにしたがって従業員数も増えてきました。いろいろな人が入社してくるし、それぞれの部署のイズムが出てくるタイミングがあったときに、ああでもない、こうでもないといいながら作成しました(笑)
- 中島/SISC
昔からのそういった積み重ねが、部署間に壁をつくらない企業風土の形成に至っているわけですね!
【製造部門のDX】データに基づいた品質管理の実現
- 中島/SISC
それでは具体的なDXの取り組みについてもお話を伺っていきたいと思います。
まずは製造部門について、DXに取り組む前はどういった部分に課題を感じていましたか?
- 光武社長
麹造り工程・仕込み(モロミの発酵)工程は職人の経験と勘に基づいた作業を行っており、属人化、業務時間の肥大化、データに基づいた品質改善が困難といった課題が生じていました。
特に酒製造においては温度管理が一番重要で、30分~1時間おきに温度を測って記帳していました。そのため、ずっと張り付いていないといけなかったり、他の仕事の最中に作業を中断して計測しないといけなかったり、夜遅くまでの残業や泊まり込みをすることもありました。
- 中島/SISC
その課題解決のためにデータの収集と管理を行われたということですね。
- 光武社長
はい、麴室用の温度管理センサーを導入し、麹の温度管理体制を構築しました。目標品温43.0℃〜44.0℃に対し、温度ブレが±3℃ほどあったのが±1℃までに抑えることができるようになりました。自動制御できる麹箱も導入しています。
また、仕込み(モロミの発酵)工程でも仕込みタンク用の温度管理センサーを導入し、モロミの正確・迅速な温度管理体制を構築しました。各タンクに接続した専用温度管理センサーで、リアルタイムに検温し、急な温度変化にも対応できるようになりました。基準値を超えると自動制御で冷水がタンクの周りに流れ、温度が上がらないようにしています。
- 中島/SISC
どのくらいの効果が出ているのでしょうか?
- 光武社長
温度管理作業(検温・ 記帳)が不要となったので、
麹:12 回/日×10 分 =1 日あたり 2 時間 相当の作業時間を削減
モロミ:1h/日(@1タンク)×25日=25時間相当の作業時間を削減
単純労働時間を 75時間/月削減することができました。
従業員からも楽になったという声が上がっています。
今後はデータが飛んだり飛ばなかったりするような不具合の調整を行っていきます。
- 中島/SISC
職人さんたちは自分のやり方やこだわりをしっかり持っていらっしゃるイメージがありますが、センサーの導入など、今のやり方を変えることに対する製造現場の職人さんの反応はどうでしたか?
- 光武社長
100%ではないが肌感覚では80~90%受け入れてくれたと思います。製造部門も平均年齢30代で若いスタッフが多いですし、杜氏も40になったくらいなので柔軟に対応してくれます。
うちの商品ラインナップや販売の仕方を見ていただければ感じられると思いますが(笑)社風が大きく影響していると思いますね。
- 中島/SISC
杜氏というと「職人さん」というイメージで勝手にご年配の方なのかなと思っていました(笑)新しいチャレンジに対する柔軟性の高さも社風になっているんですね。
【業務部門のDX】システムの一元管理で属人化を解消
- 中島/SISC
業務部門ではどのようなことを行ったのか教えていただけますか?
- 光武社長
業務部門は全ての事務作業(得意先への提案資料作成、売上管理、受注入力、工場への作業指示、入金管理 他)を電話やメール等の手作業で行っていました。非効率な上に専門的な業務やノウハウが属人化しており、情報や業務内容がブラックボックス化している状況に課題を感じていました。
そこで、製造・業務・工場・営業の全業務をシステム化・統合し一元管理化することで解決を図りました。
以前は部署それぞれに別のソフトを使っていましたが、現在は同じシステムを使ってクラウドで管理できるようにしています。会計事務所やミロク経理とも直接つながることができますし、データをcsvに落としてUSBを通してやり取りすることもなくなりました。
- 中島/SISC
従業員のみなさんは抵抗なく新しいやり方を受け入れてらしたんですよね。
具体的にどのように話をして理解を求めたのか教えていただけますか?
- 光武社長
「自分たちが楽になる」「便利になる」ということを前提に従業員に話をしました。「仕事の内容が変わって大変かもしれないけど、1年間我慢して耐えよう」と。
実際にシステムの変更時期は2~3か月くらい新旧両方のソフトに2重打ちしないといけないこともあり、ごちゃごちゃと大変で苦労したこともありました。他にもPCの年代によって連携がうまくいかず、機材の入れ替えが必要になるなど、予想外のこともありました。
今は従業員も効果を実感しているようです。
- 中島/SISC
事務所を少し覗かせていただきましたが、従業員の皆さんはお若い方が多いですよね。
- 光武社長
そうですね、平均年齢が40きっていますし、デジタルに対して抵抗があまりないのもDXを進めやすかった要因だと思います。
以前のシステムはITやシステム関係に精通したスタッフが1人いて、独自開発で作ったものでした。彼は去年独立していますが、今回のDXの取り組みも一緒に実施しています。
システムを独自カスタムしすぎていて彼しかわからないことも多く、移行が大変でした。
- 中島/SISC
当センターに来るご相談の中には、ユーザーとITベンダーの間を取り持つ役割の人がいなくてうまくいかないというケースも多いですが、そこは問題なく勧められたということですね!
業務が楽になったことで生まれた余力はどのように活用されていますか?
- 光武社長
人員2人浮いた分は営業やD2C事業へ注力し、経理のメンバーも手が空くので補助金関連の仕事ができるようになりました。
仕事が属人化していた時は代わりがいないという理由でなかなか休みも取りづらかったですが、今はみんなが休みやすいように、担当の違う仕事もできるように理解しようとする動きがあります。受注専門のスタッフが通販の仕事をするなど、担当業務を超えて手伝うこともありますよ。
- 中島/SISC
とても素晴らしい変化ですね!そういった従業員の皆さんの意識変化は社長の声掛けがあってのことですか?それとも従業員の皆さんからの自発的に声が上がったものですか?
- 光武社長
従業員の中から声が上がって専務を中心に取り組んでいます。もともとそういう文化はありましたが、自分の仕事で手一杯だったという感じです。今回の取り組みで実際に仕事を楽にできるようになって動きが出てきました。
たとえば、事務所の人が工場や出荷センターに応援に行くなど、昔から部署で壁を作らないようにはしていました。
- 中島/SISC
やはり社風が大きく影響しているということですね。
従業員の皆さんがお若いことももちろんですが、社長がプロジェクトの前にしっかり方向性を示すことや「1年間我慢しよう」といった声掛けをされているところも成功要因のような気がします。
【営業部門のDX】デジタルマーケティングの導入
- 中島/SISC
営業部門のDXはどのように進められていますか?
- 光武社長
一般消費者に向けたB2C事業、酒販店や酒類問屋に向けたB2B事業ともに、これまでイベント、ダイレクトメール、飛び込み、テレアポ等、全て足で稼いでいた営業を見直し、デジタルマーケティングを推進しました。
メルマガやWebサイト、SNSなどのデジタルメディアを活用して見込み顧客の興味を引き、問い合わせ・注文などのアクションを促すことで、確度の高い見込み顧客に対して、訪問やオンライン商談、イベント招待等を行い、人員は増やさずに顧客との接触機会を増やす営業DXを実施しました。
・ソリューションサイトの作成と運営(B2B向け)
・観光蔵「肥前屋」のB2B専用ページの作成(B2B向け)
・オウンドメディアの作成と運営(B2C向け)
・会員専用アプリの開発(B2C向け)
・マーケティングオートメーションとオンライン営業の推進(B2C・B2B)
- 中島/SISC
マーケティングの分析MAツールは今回がきっかけで導入されたんですよね。
MAツールを導入したけれど営業担当者がデータ入力をしっかりしてくれなくて情報が上手く拾えず、せっかくのツールが機能しないという話をよく聞きます。そんなお困りごとはなかったでしょうか?
- 光武社長
そうなんですよね。うちでは営業の本部長が声掛けを頻繁に行っています。
特に外の営業はスペシャリストが多く、なかなかわかってくれない。自分のお客さんを囲んでしまいがちです。
そこはやっぱり営業部の会議のたびにその必要性を説いていく必要があると思っています。
「個人ではなく、会社の業績を考えましょう」と。営業会議の後に個人面談も実施していますよ。理解してもらえるまで言い続けるしかないですね。
- 中島/SISC
営業で活躍されている方ほど抵抗あるのかなと思います。理解してもらう努力が大事ですね。
- 光武社長
営業全体・会社全体の成績を見て、個人の業績で判断しないという話をしっかりします。これをやることによって自分のためにもなるし、会社のためにもなるし、後輩のためにもなる。売り上げが上がれば給料も上げられますから。
- 中島/SISC
従業員の理解がないとなかなか進まないのがDXですから、時には地道に説得するといった細やかな声掛けも必要なんですね。
今回の取り組みで営業のマーケティングに関しては、いろいろな施策を展開されていますよね。施策を考えていらっしゃるのは社長ですか?
- 光武社長
そうです。じつは私の得意分野がマーケティングなんですよ。
40年ほど前に大学で勉強しました。その当時はマーケティングという言葉もあまり流行っておらず、セブンイレブンやヨーカドーなど大手の何社かが実施していたくらいですが、セブンイレブンの顧問の方が大学のマーケティングの教授でした。
- 中島/SISC
「いいものをつくれば売れる」という考え方の人もまだまだ多いですが、社長がマーケティングの分野に秀でていらっしゃるのは素晴らしい強みですね。
- 光武社長
もちろん、製品の良さは必須ですが、売り方・見せ方も絶対に必要です。黙っていて売れるという事は、滅多にないですからね。
- 中島/SISC
クラフトジンもいち早く商品化されていましたね。商品ラインナップだけでなく販売方法やMAツールの導入といった部分にも、社長の嗅覚が的確に時流を捉えているのが表れていると思います!
今後について思い描いていることなどはありますか?
- 光武社長
会員制アプリ「club光武」が一応少しずつ機能してはいるけれど一番遅れています。アプリをMAツールと紐づけて、観光酒蔵と連携するような形をイメージしています。今はWEB通販会員とclub光武の会員が連携していないのでそこをつなげるのが今後絶対にやらないといけないポイントですね。
さらにこれからD2Cに本格的に取り組んでいく予定です。一般商社とのやりとりはB2Bサイト「MITSUKETA!」でやっていますが、D2C専門ブランドを立ち上げます。まずはお酒から、ゆくゆくは発酵食品の展開も考えているので楽しみにしていただきたいです。
- 中島/SISC
今後の取り組みにますます期待が高まりますね。とっても楽しみです!
本日はありがとうございました!