事例紹介

DXで新規事業へ挑戦する社労士 ~労務管理の新しい未来を目指して~

提供:塚本事務所

唐津市で社会保険労務士として活躍している塚本さんは、日頃の業務から社労士と企業が抱える課題があると感じていらっしゃいました。その課題を解決する新しいシステムを開発し、サービス化するという塚本さんの大きなチャレンジについて取材させていただきました。

労務・勤怠管理の課題を解決したい

中島/SISC

今回開発されたシステムはどういったものなのでしょうか?塚本さんが感じていた課題について教えてください。

塚本さん

私たちが開発した労務勤怠管理システム「SR With」は、「管理」をテーマにしていることに特徴があります。

世の中にある多くの勤怠システムは「勤怠集計システム」としての役割に留まっており、IT化された打刻データを集計することに重点が置かれています。それ自体は素晴らしい機能ですが、社労士の視点から見ると、それは「管理」ではなく「集計」に過ぎません。管理とは、予定を基に実態を結びつけ、理想的な状態を目指すものです。

例えば、介護施設において管理者の役割は、利用者が理想的な状態に達するようスタッフを指示・調整することです。それと同じように、勤怠管理のゴールは、会社のルールや法律、労働条件などを基に適正な状態を保つことにあります。

「SR With」では、勤怠データに加え、労働条件通知書や就業規則などをシステムに統合します。これにより、各種ルールがリアルタイムで勤怠データと結びつき、法令遵守や適正な管理、そして様々なデータを統計化し、適切な賃金の算出を実現します。結果として、企業がホワイト企業へと近づくサポートを提供します。

チラシを用いてシステムの説明をする塚本氏

中島/SISC

私はあまり労務関係の知識がないのですが、打刻データをもとに「労働条件通知書に沿った働き方をしているかどうか」の確認が必要ということでしょうか?

塚本さん

そうですね。一般的な企業は労務管理は社労士に任せるか自社内で行うかのどちらかで、自社で行っているところでも労務の知識がある方が行っている仕事なので、少しわかりづらいかもしれません。

労働条件通知書はただ作成して終わりではなく、適切に運用されているか一つひとつ確認する必要があり、これが非常に手間がかかります。その結果、社員が不満を抱える要因となり、また労働基準監督署から指摘を受けます。

SR Withの最大のポイントは、分離された要素となっている打刻データと労働条件通知書や就業規則などを結びつけ、リアルタイムでチェックできるようにすることです。社労士も随時クライアント企業の労務リーガルチェックを行いますが、リアルタイムでは行えません。たとえば、月の途中で発生する労務上のトラブルや、残業代の計算に関する誤解も、このシステムがあれば未然に防げるようになります。

中島/SISC

実務に即した課題を把握できた塚本さんの、社労士ならではの視点で開発されたシステムというのが特徴的ですね。

原点:企業や社会を一歩前へ

中島/SISC

当センターへご相談に来ていただいた当時、「7〜8年前から構想を持っていました」とおっしゃっていましたね。このシステムを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

塚本さん

もともとはExcelを使って、このシステムの原型となるものを作っていました。それが私たちの事務所内では浸透していて、業務の一部として機能していたのですが、その時はまだ自分で開発しようとは考えておらず「いつかこういうものがサービスとして世に出てくるだろう」と漠然と思っていたんです。

その後、企業向けのコンサルティング業務を始めたのが大きな転機でした。クライアントと契約を結んで、実際に企業内部に入り込むと、労務関連のトラブルや課題が次々に発生し、規模の大きな会社でも労務管理が整備されておらず、それが企業成長の妨げになっている現状を目の当たりにしたのです。

戦略的支援が注目されるコンサル業界ですが、基礎となる労務管理が整わなければ、その効果は発揮されません。労務管理を省力化する必要性を痛感したことが、システム開発を本格的に目指すきっかけとなりました。この課題を解決しなければ、企業はもちろん、社会全体もなかなか前に進まないだろうと強く感じたのです。

中島/SISC

「いつかそういうサービスができるだろう」と考えていたところから、「自分でつくってしまおう」という考えに至ったのは本当に素晴らしい意識の変化ですね。新たなビジネスの種を見つける視点と、それをやろうという思い切りの良さを両方持ち合わせている人はそう多くないように思います。

塚本さん

私の考えですが、社会はまだまだ成熟していないと感じています。社会には未解決の課題が山積しており、そこにビジネスチャンスがあると考えます。「それをやるかどうか」だけが鍵で、私は「やる」と決めた以上、成功するまで全力で頑張るつもりです。

中島/SISC

塚本さんの課題解決への強い使命感と揺るぎない覚悟が感じ取れました。この挑戦が社会にどのような変化をもたらすのか、非常に楽しみです。

システムベンダー企業とのやり取りにおける苦労

中島/SISC

塚本さんが当センターをご利用いただいた最初の日が2022年の11月30日だったと記録に残っています。もう2年も経っているんだと思うと、驚きますね。

塚本さん

そうですね。ちょうどその頃、システム開発を請け負ってくれるベンダー企業を探し始めていました。スマート化センターへ相談する前は知人の紹介もなく、どこで探せば良いのか全くわからない状態だったので、一旦クラウドワークスを使って1社を見つけましたが、その会社から「10万~20万ぐらいでできますよ」と言われたんです。正直、それはありえないと思いつつも、まずは骨格だけでも見える形にしてほしいとお願いしました。

しかし、会議を1、2回進めたところで、どうも話がかみ合わないと感じました。それで、私なりに資料を作成し、「こういうものを作りたい」という具体例を提示したんです。その際、オンライン会議中に担当者が画面越しに口をあんぐり開けていたのを覚えています。さらに、その後のミーティングで「今後は時間単価として5000円いただきます」と突然言われました。それは当初の話と違うと感じ、この契約は終了しました。

この経験から、システムの仕様や規模を明確に伝えるためには、やはり資料が必要だと痛感しました。それ以降、自分でも仕様書のような資料を作り始めました。スマート化センターへ相談に伺ったのはその後ですね。

中島/SISC

確かに、そのようなトラブルは非常によくあるケースです。資料なしに口頭で「こういうシステムを作りたい」と説明しても、ベンダーさんに意図がうまく伝わらないことが多いです。特にシステムの仕様書や条件書を作った経験がない方がほとんどなので、具体的なイメージが湧かないまま進めてしまい、結果としてトラブルになるケースをよく見聞きしますね。

ベンダー選定の決め手は「本気度」

中島/SISC

当センターではベンダー選定におけるマッチングのサポートをさせていただきましたね。塚本さんにやりたいことを説明していただく「相談説明会」を実施し、サポーティングカンパニー15社が参加。個別面談に手を挙げてくださったのが5、6社程度。その後、2社に絞り込んだ後、最終的に依頼先を決められましたね。ベンダー選定の決め手は何だったのでしょうか?

塚本さん

正直なところ、経済的な理由が大きかったです。当時、限られた予算の中で進めざるを得なかったため、現実的な選択肢でした。ただ、最終的な決め手は「本気度」でしたね。

契約のために熊本から佐賀まで社長が足を運んでくださり、その際に業務を一時的にストップしてまで「ぜひ契約をお願いしたい」と熱意を見せてくれました。実際、「この日までに決めてもらえないと次の仕事が入るので…」と状況を説明されましたが、それでも決断できなかった私にさらに時間をくれました。その姿勢に「こちらのビジョンがきちんと伝わっている」と感じ、協力いただける心理状態が醸成されていると確信したんです。

中島/SISC

ビジネスは結局のところ「人と人」によるところが大きいという話をよく聞きますが、やはり熱意が通じ合ったということが決め手だったのですね。塚本さんの本気度も、相手企業の本気度も、互いに通じ合った結果だと思います。強い意志が結びついて生まれたシステムが、今後さらにどのように発展していくのか、私も楽しみになってきました。

仕様書づくりを伴走してくれたサポーターの存在

塚本さん

今回のプロジェクトを進める中で、私は本当に「運がある」と感じています。ベンダーさんとの出会いもそうですが、仕様書作りの際に毎日サポートしてくれた女性がいました。彼女はシステムエンジニアの経験があり、クライアントとの窓口役も務められる方でした。知り合いを通じて紹介してもらったのですが、約7か月間も一緒に作業してかなりお世話になりました。本当にここまで力を貸していただけるなんて、私は人に恵まれているとつくづく感じています。

中島/SISC

仕様書づくりという知識や経験がないとかなり大変な作業を、一人でするのではなく人を頼って進められたということが素晴らしいですね。外部の人の力を頼るということに抵抗を感じる方もまだ多いですし、アウトソーシングについては費用感や仕事の依頼の仕方がわからないというお悩みはよく耳にします。

塚本さん

その背景には、私自身がコンサルティングの立場を経験していたことが大きいかもしれません。コンサルを雇った場合の費用感や関わり方を予測できたので、必要性を理解して進めることができました。一般的には月20〜30万円の費用を「高い」と感じることが多いと思いますが、必要な投資だと認識していました。また、先ほどの女性も業務委託という形でお願いしていましたが、これも社労士の視点から見て非常に効率的でした。適切に契約すれば労働法の問題も発生せず、個人事業主の方は責任感が強く仕事に本気で取り組む方が多いように感じます。

中島/SISC

業務委託においては、何を成果とするのか、業務のどの部分を委託するのか、依頼内容を明確にすることが重要ですよね。

塚本さん

そうですね、人に依頼する時は丁寧に進める必要があります。今ではAIもかなり発達しているので、そういった技術に部分的に頼るという手もありますね。いずれにせよ自分ひとりで考えるよりもずっと効率的に進められると思います。

行動で示す本気度、リスクを承知の上で

中島/SISC

塚本さんの行動力には本当に感心しています。熊本にシステム開発会社があるから、実際に熊本へ行って一緒に作業を進めているんですよね。ITの観点から考えると、オンラインでも作業は可能だと思ってしまうのですが、あえて熊本に滞在されているのがすごいなと感じます。それはもう、自然と「行こう」と思っておられたんですか?

塚本さん

そうですね、理由は色々ありますが、1つはシステム開発に関して周りから「トラブルが起きやすい」とよく言われていたことです。当初の契約段階では、やはり未知の分野でもありましたので、少し慎重になっていました。今はとても良好な関係で協力的に進めていただいていますが、当時は私の「本気度」を示したかったんです。それはベンダーさんに対しても、事務所のスタッフや、私が担当しているクライアントの方々に対しても同じです。佐賀にいると、私がどれほど真剣に取り組んでいるかが伝わりにくいですが、熊本に行くことで「一体何をしているんだろう」と興味を持ってもらえるきっかけになりました。

例えば、営業の場で「今、熊本にいるんです」とオンライン上で話すと、同業者の方から「え、なんで熊本に?」と聞かれます。そうすると、「本気でシステムを作っているんです」と伝えられますし、その流れで「どんなシステムなんですか?」という具体的な話に進むこともあります。結果的に、「それなら協力するよ」と言ってくださる方が少しずつ増えてきたんです。

中島/SISC

熊本に行くと決めた時、代表であるお父様や事務所のスタッフの皆さんから何か言われましたか?

塚本さん

特に何も言われませんでした。多分、止めても無駄だと分かっていたんでしょうね(笑)。

少し話がそれますが、熊本に移ったことによる影響は良いことだけでなく、悪いこともありました。

中島/SISC

本当ですか。悪いこともあったんですね。

塚本さん

はい。本業のほうで、契約内容に影響が出ることがありました。もちろん、すごく応援してくださる経営者の方もいて、「オンラインで全然構わないよ」と言っていただけることもあります。一方で、私が近くにいないことへの不満をお持ちの方も一定数いらっしゃいます。それは当然のことだと思います。オンラインでのやり取りは録画やAIによる議事録作成、時間も場所も問わない等優れていることがたくさんあります。もっと普及して欲しいと改めて感じました。

中島/SISC

特に、塚本さんのお客様となる企業の中には、従業員の皆さんがパソコンを頻繁に使うような業種ではない場合もありますよね。そうなると、オンラインの利便性が伝わりにくい部分もあるのかもしれません。そういったメリットとデメリットを実際に体感されているのですね。これは、熊本に行く前から想定していたデメリットでしたか?それとも、やってみて初めて気づいたことですか?

塚本さん

そうですね。当初はむしろ契約そのものが切れることを覚悟していましたが、そこまでには至らなかったので、ほっとしたというのが正直なところです。

中島/SISC

では、熊本に移る段階で、かなり初期からリスクをしっかりと考えた上での決断だったのですね。

塚本さん

そうですね。そのリスクを理解していたからこそ、覚悟を持って踏み出せたのだと思います。

作って終わりではない、次の一手

システム画面を指さす塚本氏

中島/SISC

システムは『作って出来上がったら終わり』ではないとよく相談者さんにお話しすることが多いのですが、塚本さんもこれからまだたくさんやることがあると考えていらっしゃいますよね。今後の意気込みについて教えてください。

塚本さん

まず、セミナーや講演、登壇などを通じて、多くの人に私たちの取り組みを知ってもらうことが重要だと考えています。営業活動で言えば、これは認知拡大のフェーズにあたりますね。
その一方で、既に契約いただいているお客様へのサポートにも注力していかなければなりません。

最近注目しているのが、AIを活用したカスタマーサポートです。例えば、ChatworkなどのツールとAIを連携させ、会員が質問するとAIが即座に回答する、といった新しい形のサポートですね。これは非常に興味深い仕組みで、私たちの提供するサービスにどう活かせるかを考えています。お客様への守備的な部分、つまりサポート体制を強化していくことは、これからますます重要になると思っています。

中島/SISC

「守備」ですね、良いキーワードだと思います。営業活動などの「攻め」とあわせて、両輪で回していくことが重要ですね。

意志の強さと感謝の心

塚本さん

ただ、正直なところ、「ここまで大変だと分かっていたらやらなかったかもしれない」という気持ちもあります(笑)。でも、分からなかったからこそ踏み出せたのかもしれません。ありがたいことに、「まず契約してみては」と背中を押してもらえて、そのおかげで補助金の申請が通ったり、銀行からの借り入れが可能になったりしました。支えがあったからこそ、ここまで来られたのだと実感しています。

中島/SISC

なるほど。挑戦する中で、多くの学びや気づきがあったんですね。

塚本さん

そうですね。ただ、ひとりではできないことばかりなので、良い意味で人に頼りながら進めています。自分のことを「赤ちゃん」のようだと思っているんですよ。まだまだ何もできない。システム開発も、マーケティングも、周りの力が必要不可欠です。

中島/SISC

その率直なマインドが、多くの方から協力を得たり、「応援したい」と思われたりする理由なんですね。赤ちゃんのように無垢でありながらも、「やるぞ」という意志はしっかり持っている。そしてそれを飾らずに伝える。変なプライドを持たず、素直でいられるところが、塚本さんの最大の魅力なのかもしれません。

塚本さん

ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。これからも、自分らしく、でも一歩ずつ確実に前進していきたいと思います。

中島/SISC

すでに契約していただいている社労士の皆さんには、来年1月からシステムを実際に使っていただく予定ですよね。お話しした際の反応はいかがでしたか?

塚本さん

反応はとても良かったです。即決で契約してくださる方が多く、最近では、「塚本さんだから応援してる」という声も聞きます。嬉しい反面、「それで本当にいいのかな?」という不安も少しありますけど(笑)。

また、社労士会の仲間たちが僕のためにセミナーを開催してくれたり、積極的にシステムを紹介してくれるなど、信じられないほどのサポートをいただいています。感謝しかないですね。やっと皆さんにお見せできる状態になったので、ここからさらに加速していくと思っています。

中島/SISC

実際に使ってみたフィードバックや、「ここをもっとこうできないか」といったご相談が出てくるのも楽しみですね。

塚本さん

ぜひそういう意見が欲しいですね。今のところ、完全に僕の思想だけで作っていますから。ただ、皆さんそれぞれ異なるニーズや考え方をお持ちなので、いただいた意見をすべてまとめるのは難しい部分もあります。少しずつ改良を重ねて、より良いものにしていきたいです。

中島/SISC

システムがどんどん成長していくのが楽しみですね。本日はありがとうございました。

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